老後は田舎でのんびりと暮らしたい――。そんな思いを抱いている中高年は少なくないだろう。ただ現実の田舎暮らしは決して良いことばかりではない。空気がきれいで水がうまくても、耐え切れなくなってしまった人はたくさんいる。
ケース1・遠くの親戚より近くの他人
3年前まで都内で自営業を営んでいた高井さん(仮名=70)は、妻に先立たれていたこともあり、会社を畳むと同時に生まれ故郷の岐阜県へ移住することを決めた。10代で東京に出てきたので半世紀ぶりの凱旋だったが、現地で暮らす妹夫婦の勧めもあって庭付きの一戸建てを購入。当初は生活に何の不満もなかったという。
ところが、想像していた以上に地域に溶け込めなかった。
「まあ、とにかく外で飲んでいる人が少なくて面白くない。最初は近所の(といっても3キロくらいある)小料理屋に顔を出してたけど、雪が降ったら帰るのが大変だから、そんなに頻繁に行けない。だから、だんだん外に出るのが面倒になっちゃって、家で酒飲みながらCSの時代劇チャンネルばっかり見てた。友達は田んぼで鳴いてるカエルくらいだよ」
結局、高井さんは1年半で家を売り払い、東京に舞い戻ってきた。
「遠くの親戚より近くの他人ってことわざは本当なんだな」と苦笑いだ。