「スローライフ」の理想と現実・田舎暮らしの失敗談
老後は田舎でのんびりと暮らしたい――。そんな思いを抱いている中高年は少なくないだろう。ただ現実の田舎暮らしは決して良いことばかりではない。空気がきれいで水がうまくても、耐え切れなくなってしまった人はたくさんいる。
ケース1・遠くの親戚より近くの他人
3年前まで都内で自営業を営んでいた高井さん(仮名=70)は、妻に先立たれていたこともあり、会社を畳むと同時に生まれ故郷の岐阜県へ移住することを決めた。10代で東京に出てきたので半世紀ぶりの凱旋だったが、現地で暮らす妹夫婦の勧めもあって庭付きの一戸建てを購入。当初は生活に何の不満もなかったという。
ところが、想像していた以上に地域に溶け込めなかった。
「まあ、とにかく外で飲んでいる人が少なくて面白くない。最初は近所の(といっても3キロくらいある)小料理屋に顔を出してたけど、雪が降ったら帰るのが大変だから、そんなに頻繁に行けない。だから、だんだん外に出るのが面倒になっちゃって、家で酒飲みながらCSの時代劇チャンネルばっかり見てた。友達は田んぼで鳴いてるカエルくらいだよ」
結局、高井さんは1年半で家を売り払い、東京に舞い戻ってきた。
「遠くの親戚より近くの他人ってことわざは本当なんだな」と苦笑いだ。
ケース2・納得いかないローカルルール
定年退職をきっかけに夫婦で長野県に移住した菊池さん(仮名=67)はまず、妻との関係がぎくしゃくした。
「最初は家内も田舎の生活を楽しんでいたのですが、不便さに耐えかねて週末は都内の息子の家に出掛けるようになって、別居状態。電車代もバカにならないのでたしなめたのですが、『(テレビの放送局が少ないので)いつも見てた韓流ドラマが見られないじゃないの。○○ちゃん(息子)に録画してもらってるんだから』って。これには私もあきれました」
とはいえ、菊池さん自身も不便さを感じているという。田舎では1人に1台の車が当たり前。タクシーが流していることもないので、呼ぶとなれば迎車料金が上乗せされる。また、ゴミの分別がやたらと厳しく、ゴミ袋は10枚500円と高価。しかも、氏名と地域名を記入しなければならないというローカルルールにも納得がいかない。
「意外と盲点なのが銀行などの金融機関が少ないこと。都会ではメガバンクを使っていれば、ATMに困ることもありませんでしたが、田舎で暮らすとなれば地元の金融機関、あるいはゆうちょか農協に口座を作るしかない。退職金の運用とかもあるから面倒だよね」
どうやらスローライフは思った以上に難しいようだ。それでも諦められないのなら、各自治体が実施している「田舎暮らし体験ツアー」を利用して試してみるといいかもしれない。現実を知らずに飛び込むのは無謀だ。
ケース3・就農は困難
都会育ちの元芸人・せんじ(41)も、世代こそ違うが田舎暮らしに失敗した一人。就農を目指し、山形県長井市に引っ越したが断念。現在は就職活動中の身だ。
「就農を断念した最大の理由は、農業は初心者ができるものじゃないと痛感したから。オイラは青年農業給付金(年間150万円)をもらいながら、2年間の研修を経て農家になるつもりでしたが、お金と土地がないと農業なんてできない。実際、非農家出身者の9割は就農を諦めてますしね。もちろん、仕事をリタイアされている方は収支を気にしなくてもいいでしょうが、土いじりがしたいくらいの気持ちで田舎に移住するのはリスクが高すぎます」
家賃や駐車場代は安くなるが、プロパンガスや灯油といった燃料代は決して安くないし、移動は基本的に全てマイカーなので当然ガソリン代の出費もかさむ。
引用元: 「スローライフ」の理想と現実 | 東スポWeb – 東京スポーツ新聞社.
ケース1、2の高井さんと菊池さん夫妻は、田舎に何を求めて移住したのでしょうか。
漠然と「田舎でのんびり暮らしたい」だけでは失敗するのは目に見えているはず。
近所に飲み屋がないのなんて当たり前だし、田舎は不便だからこそのんびりできるんです。不便を楽しむ姿勢こそが田舎暮らしに必要なものではないでしょうか。ゴミの分別だって楽しんでやるくらいの姿勢で行きましょうよ(笑)